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和歌山地方裁判所御坊支部 昭和47年(ワ)20号 判決

原告

都田フジ子

ほか一名

被告

山崎機材株式会社

ほか一名

主文

1  被告らは各自原告都田フジ子に対し金六三〇万二三四二円および内金五九〇万二三四二円に対する昭和四五年一〇月二八日から、内金四〇万円に対する昭和四七年八月二七日から各完済までの年五分の割合による金員の支払をせよ。

2  原告都田フジ子のその余の請求および原告都田穣一郎の請求はいずれも棄却する。

3  訴訟費用中原告都田フジ子と被告らとの間においては、同原告に生じた費用の五分の四を被告らの連帯負担としその余は各自の負担とし、原告都田穣一郎と被告らとの間においては全部同原告の負担とする。

4  この判決は原告都田フジ子の勝訴部分につき仮に執行することができる。

事実

第一当事者双方の求めた裁判

(原告ら)

1  被告らは原告都田フジ子(以下原告フジ子という。)に対し各自金七四二万八〇四二円および内金六七五万三〇四二円に対する昭和四五年一〇月二八日から、内金六七万五〇〇〇円に対する昭和四七年八月二七日から、いずれも完済までの年五分の割合による金員の支払をせよ。

2  被告らは原告都田穣一郎(以下原告穣一郎という。)に対し各自金一一〇万円および内金一〇〇万円に対する昭和四五年一〇月二八日から、内金一〇万円に対する昭和四七年八月二七日から、いずれも完済までの年五分の割合による金員の支払をせよ。

3  訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

4  仮執行の宣言。

(被告ら)

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二原告らの請求原因

一  原告フジ子は次の交通事故(以下これを本件事故という。)によつて負傷した。

発生日時 昭和四五年一〇月二八日午前一一時ごろ

発生場所 和歌山県日高郡由良町里一、一九三番地先国道四二号線

加害車両 普通乗用自動車

右所有者 被告山崎機材株式会社(以下被告会社という。)

右運転者 被告山崎三栄(以下被告三栄という。)

被害車両 原動機付自転車

右運転者 原告フジ子

事故区分 衝突事故

事故内容 原告フジ子が御坊市から由良町方面へ自己所有の原付車で北進中、被告三栄が普通乗用車を運転して南進し先行車追越しのため道路右側部分へ出たが先行車の前には他の車両が連続して進行していたため追越しを完了して道路左側に戻ることができず、折から対向して来た原告フジ子運転の原付車と道路右側部分の側端付近で衝突

受傷の程度 右大腿切断、右骨盤骨折、右大腿頸部粉砕骨折

治療期間 昭和四五年一〇月二八日から翌四六年八月一四日まで病院に入院し、同日退院し同年一二月二三日まで通院加療

後遺障害 右下肢をひざ関節以上で喪失、右大腿を二分の一以上切断、右大腿頸部粉砕骨折のため股関節の運動機能は略完全に消失(下腿機能全廃)、後遺障害の等級は第四級五号

二  責任原因

被告会社

1  被告会社は右加害車両を所有し、これを自己のため運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法第三条により本件事故によつて生じた原告らの人身損害を賠償すべき義務がある。

2  被告三栄は被告会社の代表取締役でありその職務執行中に本件事故を起したものであるから、被告会社は民法第四四条により本件事故によつて生じた物的損害を賠償すべき義務がある。

被告三栄

被告三栄は、本件事故につき自動車運転者として、前方不注視、追越不適当、右側通行の過失がある。よつて被告三栄は民法第七〇九条により本件事故によつて生じた原告らの人的、物的損害を賠償すべき義務がある。

三  原告フジ子の蒙つた損害

1  入院雑費

昭和四五年一〇月二八日入院から昭和四六年八月一四日退院までの二九一日間につき一日三〇〇円として計算する。

金八七万三〇〇〇円

2  義足、杖等の費用

義足二個、松葉杖、カナデアン式杖購入費用である。

金一四万一三七〇円

3  逸失利益

原告フジ子は訴外ゲオール化学株式会社と特約店契約を結び、同社御坊出張所長として同社より委託された化粧品を販売員により需要家に対し直接家庭訪問により販売させるとともに、自らも販売員として需要家の家庭訪問をして右化粧品を販売していたが本件事故による受傷のため現在および将来にわたつて自ら販売員として家庭訪問することができなくなつた。

原告フジ子が本件事故前一年間に自ら販売員として売上げた金額に応じて同社から支給された歩合金は合計四八万三一八四円であつたが、本件事故後一年間の売上げに対し支給された歩合金は合計一九万二五九九円であり、その差額二九万〇五八五円は本件事故によつて生じた原告フジ子の一年間の減収である。なお本件事故後原告フジ子が家庭訪問をすることができなくなつて尚売上高があるのは、従前からの近隣の顧客が原告フジ子の自宅を訪れ購入してくれたことによるものである。

原告フジ子は本件事故当時四四歳であるので以後一九年間就労可能であるから右期間の減収による逸失利益を中間利息を控除した現在の価額に換算する(そのホフマン式計算による計数は一三・一一六)。

金三八一万一三一二円

4  家政婦賃

原告フジ子は右のほか主婦として家事労働に従事していたところ本件事故による後遺障害のため著しく稼動能力が低下し、炊事、洗濯、掃除などに不自由であり、退院後子女二名の手助けにより家事をまかなつてきたが昭和四七年四月から子女二名とも就学、就職により手助けを得ることができないので家事手伝を雇わねばならない。次の居間改造等あるいは原告フジ子が後遺症適応するまでに五年間を要するとして、その間家事手伝いを必要とする。その給料は月額二万円であり、五年間のホフマン式計算による係数は四・三六四であるので右期間の中間利息を除控した現在の価額に換算する。

金一〇四万七三六〇円

5  居間等改造費

原告フジ子は前記後遺障害のため日常生活において起居すら不自由で自宅の居間、風呂、便所などを洋式化する必要がある。右改造工事見積金を請求する。

金一一二万五〇〇〇円

6  慰藉料

原告フジ子は本件事故により最初の一ケ月間は意識不明の状態で生死の境をさまよい、前記の治療期間を要し、生まれもつかない不具の身となつた。その慰藉料は、傷害の点で金一〇六万五〇〇〇円、後遺障害の点で金二七〇万円が相当と思われる。

金三七六万五〇〇〇円

7  物損

原動機付自転車が破損したので代品購入相当額二万円は原告フジ子の損害である。

金二万円

8  弁護士費用

前記1ないし7の合計金一〇七八万三〇四二円から後記既受領の金四〇三万円を控除した残金六七五万三〇四二円の請求金額の約一割相当額が弁護士費用として支払われるべきである。

金六七万五〇〇〇円

四  保険金等の受領

原告フジ子は被告らから損害賠償内金として金六〇万円の弁済を受け、また訴外日本火災海上保険会社から自賠責保険金として金三四三万円の支払を受けた。そこで右合計四〇三万円を前記フジ子の蒙つた損害金額から控除する。

五  原告穣一郎の蒙つた損害

1  慰藉料

原告穣一郎は原告フジ子の夫であるが、同人が本件事故による負傷以来現在まで一日として心身の休まる日はなく、家庭生活の不自由と夫婦生活の危機感におそわれている。よつてその慰藉料として金一〇〇万円を請求する。

金一〇〇万円

2  弁護士費用

右慰藉料請求金額の一割が弁護士費用として支払われるべきである。

金一〇万円

六  原告両名の請求

原告フジ子は被告ら各自に対し、損害賠償残金七四二万八〇四二円、原告穣一郎は被告ら各自に対し損害賠償金一一〇万円および、いずれも弁護士費用を除く金額に対する不法行為の日から完済までの、弁護士費用につき被告らへの訴状送達の日の翌日たる昭和四七年八月二七日から完済までの各年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三請求原因に対する被告らの答弁

一  請求原因一のうち原告フジ子の受傷の程度、治療期間、後遺障害は争う。その余の事実は認める。

二  同二の事実はすべて認める。

三  同三は争う。

原告フジ子の逸失利益について

原告フジ子の主張によると同原告は本件事故により約一〇カ月間入院中であつたにもかかわらず、事故後一年間に歩合金一九万二五九九円を得ているという。そうすると同原告が退院し自宅で商売可能な状態であれば、もつと売上げ及び収入が増加する筈である。従つて、本件事故前後一年間のみの差損によつて逸失利益を計算した同原告の主張は甚しく不当である。

また化粧品訪問販売は商品の性質上おのずから年齢的な制約による売上高の増減があり、従つて高年齢者の販売員は皆無である。

家政婦賃について

有職主婦である原告フジ子についてセールス業の逸失利益と家事労働の利益とを併せ請求することは過大である。

居間等改造費について

本件後遺障害を理由とする家屋の増設工事費の請求は相当因果関係の範囲を逸脱するものであるから認め難い。

慰藉料について

請求額が過大である。

四  請求原因四の事実は認める。

五  同五は争う。原告穣一郎が慰藉料の支払を請求しうる根拠は稀薄である。

第四証拠関係〔略〕

理由

一  争いのない事実

昭和四五年一〇月二八日午前一一時ごろ、和歌山県日高郡由良町里一、一九三番地先国道四二号線上において原告フジ子が御坊市から由良町方面へ原動機付自転車を運転して北進していたところ、被告三栄が被告会社所有の普通乗自用車を運転して南進し、先行車追越しのため道路右側部分へ出たものの、先行車の前に他の車両が連続して進行していたため追越しを完了して道路左側に戻ることができず、折から対向して来た右原告運転の原付車と道路右側部分の側端付近で衝突し右原告を負傷させたこと、被告会社は右加害車両の運行供用者として自動車損害賠償保障法第三条により人身損害を、代表取締役たる被告三栄の職務上の不法行為につき法人として民法第四四条により物的損害を、被害者に賠償すべき義務があること、被告三栄は右交通事故につき自動車運転者として前方不注視、追越不適当、右側通行の過失があり民法第七〇九条により被害者に損害を賠償すべき義務があること、被告らは原告フジ子に対し損害賠償内金として金六〇万円支払つたことおよび日本火災海上保険会社から原告フジ子に対し自動車損害賠償責任保険金として金三四三万円の支払がなされたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

二  原告フジ子の受傷の程度、治療期間および後遺障害

〔証拠略〕によると、原告フジ子は本件事故により一瞬にして事故現場で右下腿を喪失し、即日御坊市湯川町所在の北裏病院に収容され、右大腿切断、右骨盤骨折、右大腿頸部粉砕骨折の傷害により昭和四五年一〇月二八日から翌四六年八月一四日まで二九一日間北裏病院で入院治療を受け、その間激痛に苦しみ、連日の如く鎮痛剤、睡眠薬を服用し、退院後も同年一二月末まで毎週一回同病院に通院したこと、本件事故による後遺障害は右大腿の二分の一以上での切断、右大腿頸部粉砕骨折による股関節の運動機能の略完全なる消失、右大腿残存部の機能全廃であり、右は自動車損害賠償保障法施行令別表に定められた後遺障害等級別表第四級五号に該当するものであることが認められる。

三  原告フジ子の蒙つた損害

1  入院雑費

前示二に認定の原告フジ子の傷害の程度および入院期間からして、入院加療中の雑費は賠償義務者において特段の事情があるとの主張立証をしない限り一日金三〇〇円と定めるのを相当とするから、本件において、右雑費に相当する損害は一日三〇〇円の割合で前記認定の入院期間二九一日分の金八万七三〇〇円である。

2  義足、杖等の費用

〔証拠略〕によれば、原告フジ子は前示認定の後遺障害のため日常生活をするうえで義足および杖が必須であり、同原告は現在までに杖および義足の購入、調整のため合計一四万一三七〇円支出していることが認められる。右は本件事故による損害と認めるのが相当である。

3  逸失利益

〔証拠略〕によれば、原告フジ子は夫穣一郎との間に二女をもうけ、昭和四〇年一一月からゲオール化学株式会社との間に出張所(特約店)契約を結び、ゲオール化粧品御坊出張所長として自宅において右会社の委託商品の保管、販売員の指導監督、右会社への業績報告等の仕事に従事すると共に、自らも販売員として原動機付自転車等を使用して顧客を訪問して化粧品を販売して歩合給を得て、また家庭にあつては一家の主婦として家事労働に従事していたこと、原告フジ子は本件事故による前記後遺障害のためひとりで外出することは困難となりとくに商品や化粧器具を持参しての訪問販売は全く不可能となり、自宅にあつてゲオール化粧品御坊出張所長としての仕事をなしうる程度であること、原告フジ子が本件事故前一年間に自ら販売員として売上げた金額に応じて取得した歩合金収入は合計四八万三一八四円、事故後一年間に取得した歩合金収入は合計一九万二五九九円で、同原告主張のとおりその差額二九万〇五八五円は原告フジ子が本件事故によつて蒙つた収入減の損害であること、原告フジ子は大正一四年一一月二日生れで本件事故当時四四歳であつたこと、同原告の従事した化粧品訪問販売の仕事は販売員に時間的拘束がなく、顧客を確保すれば安定した収入が望め、一般に六三歳程度までは仕事を続けられる職種であるので、同原告の場合本件事故に遭遇しなければ尚一九年間は右職業に就労できる筈であつたこと、以上の事実が認められる。

被告らは、原告フジ子が本件事故により約一〇カ月入院していたにもかかわらず同原告が前示認定の歩合給を取得しているとすれば、同原告が退院し自宅で営業可能となればもつと売上げ及び収入が増加する筈である旨主張するが、前示認定のとおり原告フジ子が今後訪問販売をすることは不可能で新規の顧客は得られないうえ、〔証拠略〕によれば原告フジ子の入院中に化粧品販売の実績があつたのは、従前からの顧客が原告宅に化粧品購入に来たことや顧客からの注文に対し夫穣一郎が配達業務を行つたことによるものであると認められるので、前示事故後一年間の歩合給減少額をもつてこれに相当する損害があるものとするに何等妨げとならない。

次に被告等は高年齢者は化粧品販売に適しなので就労可能年数を短期に数えるべき旨主張するが、〔証拠略〕によると、同原告の取扱う化粧品は顧客が若年層に限定されておらず同原告の主要顧客は同年輩者であるので販売員が高齢者であつても何等差支えないものと認められる。従つて六三歳まで就労可能であつたものと認定するにさまたげとならない。

そうすると原告フジ子の逸失利益は、年間減収額を二九万〇五八五円として、就労可能年数一九年について年五分の割合による中間利息を控除し(ホフマン式係数一三・一一六)、金三八一万一三一二円(円未満四捨五入)と認めることができる。

4  家政婦賃

〔証拠略〕によると、原告フジ子は電話応待や販売員に対する指導等はできるが自分自身の動作に不自由し、介添人が居なければ入浴もできない状況であること、同原告は義足を肩と腰にバンドで強く固定し、体幹の動作で義足を動かして使用しているもので、義足の着脱じたいが容易でなく、義足を装着しての日常動作にも苦痛が伴い、これに習熟するには原告フジ子のかなりの努力と相当な期間(少くとも五年間以上)を要するものであること、同原告は現在のところ主婦として買物、掃除、布団のあげ下し等は全くできず、炊事や洗濯も機械の操作あるいはそれに類する簡単な労務に限つてなすことができるにとどまること、家事の大部分は夫穣一郎によつてなされていることが認められる。そうすると、原告フジ子が本件事故前と同じ程度に安定した家庭生活を確保するためには一カ月に一〇日程度は家政婦を依頼する必要があるものと解せられる。家政婦賃として月額二万円の五カ年分の支払を求める原告フジ子の請求が右必要な範囲内にとどまることは明らかであるから、右金額について年五分の割合による五年間の中間利息を控除する(ホフマン式係数四・三六四)と右損害は金一〇四万七三六〇円と認めることができる。

5  居間等改造費

〔証拠略〕によると、原告フジ子は前示認定の後遺障害のため家庭内で義足および杖を使用しなければ日常の動作ができないところ、畳敷の日本家屋では義足をつけて一人で立つことじたい困難であり、その他原告らの自宅は身体障害者には不便が多いので、日本間を洋間に、便所も洋式に改造し、台所、食堂、洗面所、浴室の配置を改め、且つ便所や浴室をすべらないよう床の改善をする必要があるものと認められる。

〔証拠略〕によると右改造に要する費用は金一一二万五〇〇〇円と見積るのが相当と認められ、これは被告らにおいて賠償すべき損害にあたるものと解せられる。

6  慰藉料

本件事故に基づく原告フジ子の精神的損害を慰藉すべき金額は前示認定の原告フジ子の入通院期間、治療状況、後遺障害の程度その他諸般の事情を総合して金三七〇万円を以て相当と認める。

7  物損

原告フジ子が運転していた原動機付自転車が原告フジ子所有のものであることは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によると右原動機付自転車は本件事故により大破し使用不能となつたこと、当時の価額は二万円相当であつたことが認められる。してみると右二万円は被告らにおいて賠償すべき損害である。

8  弁護士費用

原告フジ子が弁護士榎本駿一郎外一名に本件訴訟の代理を委任していることは当裁判所に顕著であり、〔証拠略〕によると原告フジ子は本件訴訟が勝訴した場合その勝訴金額の一割に当る金額を報酬として右弁護士らに支払う約定のあつた事実を認めることができる。そして当裁判所に顕著である本件事案の難易、請求額、認容額その他の事情をしん酌すると、原告フジ子から右弁護士らに支払われるであろう報酬金でしかも本件事故と相当な因果関係に立つ損害の範囲に属するものと認められるものは金四〇万円というべきであるから、その限度においてこれを損害と認める。

四  保険金等の受領

してみると、原告フジ子が本件事故によつて蒙つた損害中被告らにおいて賠償すべき金額は、入院雑費八万七三〇〇円、義足、杖の費用一四万一三七〇円、逸失利益三八一万一三一二円、家政婦賃一〇四万七三六〇円、居間等改造費一一二万五〇〇〇円、慰藉料三七〇万円、物損金二万円、弁護士費用四〇万円、合計一〇三三万二三四二円であるところ、前示のとおり原告フジ子が被告らおよび保険会社から合計四〇三万円の支払を受けたことは当事者間に争いがないからこれを控除すると残額は六三〇万二三四二円となる。

五  原告穣一郎の請求について

原告穣一郎は妻フジ子の本件事故による受傷を理由に自己の精神的苦痛の慰藉として金一〇〇万円の支払を求めているものである。身体傷害の場合の近親者の慰藉料請求は、被害者が生命を害された場合にも比肩すべき、または右場合に比して著しく劣らない程度の精神上の苦痛を受けたときにかぎり、自己の権利として慰藉料を請求できるものと解すべきである(最高裁判所昭和四三年九月一九日判決)。ところで前示認定の原告フジ子の傷害、入通院期間、後遺障害の程度および原告穣一郎の強いられた家庭生活上の諸々の苦難によれば、原告穣一郎が多大の精神的苦痛を受けたことは認められるが、原告フジ子が生命を害された場合にも比肩すべきかまたは右場合に比して著しく劣らない程度の精神上の苦痛を受けたものとは認め難く、したがつて原告穣一郎に慰藉料請求権があるとは認められない。

してみると、原告穣一郎の弁護士費用の賠償を求める請求も理由がないものといわねばならない。

六  結論

以上の次第で、被告両名は各自原告フジ子に対し金六三〇万二三四二円および弁護士費用賠償請求を除いた内金五九〇万二三四二円に対する不法行為の日である昭和四五年一〇月二八日から、内金四〇万円(弁護士費用賠償請求)に対する被告両名への本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかである昭和四七年八月二七日から、各完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるものということができるから、原告フジ子の本訴請求は右の限度において正当として認容すべく、原告フジ子のその余の請求および原告穣一郎の請求はいずれも失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 井土正明)

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